将来の工場システムMES──中小製造業は“その前の一歩”から始めよう

「今日の進捗、わかりますか?」

「今日の生産、どこまで進んでる?」
社長が現場に顔を出さないと、状況が分からない――。

そんな風景、中小製造業では珍しくありません。

現場担当に聞けば分かるのですが…

  • Aさんは「この工程までは終わりました」
  • Bさんは「この部品は遅れてます」
  • Cさんは「正直、全体の進捗は把握していません」

このように情報が点在していると、社長や管理者は“全体像”が見えず、判断に時間がかかります。

  • 出荷に間に合うのか不安
  • 顧客からの納期問い合わせに即答できない
  • 不具合が出たときに「どこで止まっているか」が分からない

本来は“会社の頭脳”が判断に集中すべきところを、情報探しに時間を取られてしまう…。これこそが現場の非効率であり、経営の大きなリスクでもあります。

ここで登場するのが MES(製造実行システム)
MESは「工場をリアルタイムで見える化する仕組み」として製造業で重要視されています。

ただし、いきなり導入できる中小製造業はほとんどありません。投資も必要ですし、運用の負担も小さくないのが現実です。

💡 そこで本記事では――

  • MESとはそもそも何なのか?
  • なぜ理想とされるのか?
  • そして中小企業は“まず何から取り組めばいいのか?”

この3点を、分かりやすく解説していきます。

MESとは?

MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)
ひとことで言うと、「現場の作業と工程をリアルタイムに把握・管理するシステム」です。

📌 どんなことができる?

  • いま、どの工程がどこまで進んでいるかを把握できる
  • 計画と実績をリアルタイムで比較できる
  • 品質や不良の発生も現場から即時に共有できる

つまり「いま現場で何が起きているか」を見える化する仕組みです。

💡 具体例として、WingArcの「MESOD」というシステムがあります。
これは製造現場の作業進捗や品質情報をリアルタイムに収集・分析でき、管理者や経営者がいま何が起きているかをひと目で把握できるようにするものです。
さらに生産計画システム(例:ASPROVA)と連動して、計画と実績を自動的に突き合わせる仕組みも備えており、効率的な管理につながります。

大企業ではすでに広く使われており、以下のような効果を発揮しています。

  • 生産性向上(ムダな待ち時間の削減)
  • 品質安定(工程ごとの不良をすぐ発見)
  • 顧客対応のスピードUP(「納期はいつ?」に即答できる)

⚠️ ただし中小製造業にとっては、すぐに導入できるものではありません。
一般的なMESはシステムの規模が大きく、導入コストも高額。現場の負担も小さくはないのです。

👉 それでも「理想像」としてMESを知ることは重要。
「いずれはこうなりたい」という未来の姿を意識しておくことで、足元の改善に向けた一歩が踏み出しやすくなります。

MESが理想とされる理由

なぜMESが「理想の工場システム」とされるのでしょうか?
その理由は大きく4つあります。

1. 進捗・品質・稼働率の見える化

  • いまどの工程が止まっているのか
  • どのラインが稼働しているのか
  • 不良はどの段階で出たのか
    👉 これらがひと目で分かると、ムダな確認や伝言が不要になります。

2. 属人化の解消

  • 「Aさんに聞かないと分からない」状態から解放
  • 誰でも同じ情報を見られるようになり、情報の属人化が減る
    👉 結果的に業務が安定し、教育もしやすくなります。

3. 顧客対応力の向上

  • 「この製品は今どの工程?」
  • 「不具合はどこで発生した?」
    👉 取引先からの質問に即答できるため、信頼性が上がります。

4. 事業成長に伴う工程管理のレベルアップ

  • 工場が小さいうちは「紙やExcel」でもなんとか回ります
  • しかし売上や取引先が増えると、属人化・紙ベース管理は限界に
    👉 そのときに必要なのが、MESのような“高度な工程管理”です

⚠️ 特に経営者目線で重要なのは「会社の安心感」。
進捗や品質をリアルタイムで把握できると、「トラブルが起きても手遅れにならない」という安心感が得られます。

つまりMESは――
「いまは難しくても、将来を見据えたときに必要になるシステム」
だからこそ、理想像として知っておく価値があるのです。

なぜ今から工程管理のレベルを上げるのか

MESは将来の理想像。
でも、いきなり導入できる会社はほとんどありません。
だからこそ大事なのは、いまから工程管理のレベルを少しずつ上げていくことです。

人手不足とベテランの離脱リスク

現場を支えてきたベテラン社員が体調を崩したり、定年で抜けたりすると、仕事の流れが急に分からなくなる――。
「この人がいないと進まない」状態は、思った以上に危ういものです。
新人に引き継ぎたくても、仕組みが整っていないために結局属人的なまま、というのもよくある話です。

取引先からの要求が厳しくなっている

最近は「図面通りに作れる」だけでは足りません。

  • 不良が出た場合、「どのロット」「どの工程」で発生したか説明を求められる
  • 「短納期でお願いしたい」「納期回答は正確に」と要求される

こうした要望に応えるには、工程を正しく記録し、共有できる仕組みが欠かせません。
「確認して折り返します」では信頼を失う可能性もあるのです。

工程管理は一日にして成らず

ある日突然タブレットやシステムを導入しても、現場がすぐに対応できるわけではありません。

  • 入力に慣れず、かえって作業効率が落ちる
  • 記録する習慣がなく、データがたまらない
  • ためたデータをどう使えばよいか分からない

こんな理由で「システムはあるけど使われない」という状況になるのは珍しくありません。
だからこそ、いまのうちから紙やExcelで管理している情報を整理し、少しずつ共有の仕組みを作る必要があります。

👉 要するに、「将来MESを見据えて、いまから小さな改善を始める」ことが大切なのです。
日々の業務を整理し、属人化を減らす工夫を積み重ねていく。
その一歩一歩が、未来の仕組みづくりにつながっていきます。

中小製造業がいきなりMES導入は難しい

MESは理想的な仕組みですが、「じゃあウチもすぐ導入しよう!」 と考えると大きな落とし穴があります。
中小製造業にとってはハードルが高すぎるのです。

初期投資が大きい

  • システム導入費用、サーバーや端末などの機器購入費
  • 導入支援やカスタマイズ費用もかかり、数百万円規模になることも

中小企業にとって、この出費は決して軽くありません。

運用定着の負担

  • 現場の人が入力に慣れるまで時間がかかる
  • 新しい仕組みに抵抗を感じる人も多い
  • その間はかえって効率が落ちることもある

「システムを入れただけ」で終わり、結局紙やExcelに戻る…そんな失敗談はよく耳にします。

連携の難しさ

  • MES単体では使えず、ERPやIoTと連携が必要になるケースも多い
  • そのたびに追加投資や運用ルールの変更が発生する

👉 中堅企業でさえ導入に失敗する例は珍しくありません。
無理に導入すれば「現場に使われないシステム」になってしまい、投資が無駄になるリスクが高いのです。

✅ だからこそ重要なのは、いきなりMESを目指すのではなく、自社に合ったステップを踏むこと
「できる範囲から少しずつ改善する」ことが、最終的にMESにつながります。

超スモールスタートの現実的ステップ

では、中小製造業は実際にどう進めればいいのでしょうか?
答えはシンプル。“超スモールスタート” です。
大がかりなシステム導入ではなく、「小さく始めて、慣れながら改善する」ことが成功のポイントです。

ステップ1:現状の見える化

まずは、いま何がムダになっているかを把握するところから。
紙の日報がファイルに眠っていて誰も見返していない、Excelが人によってフォーマットバラバラ…そんなことはありませんか?
「属人化」「二重入力」「情報が散らばっている」など、目に見えにくい問題を洗い出すことが第一歩です。

ステップ2:1ラインや1工程をデジタル化

工場全体を一気に変える必要はありません。
例えば「組立工程だけ」「検品だけ」と範囲を絞って始めると、現場の負担が少なくなります。
タブレットで簡単に入力できる仕組みを取り入れるだけでも、「記録がその日のうちに残る」「進捗をすぐに共有できる」という効果を感じられるはずです。

ステップ3:実績データの分析と改善

せっかく入力しても、ただ溜めるだけでは意味がありません。
例えば「この工程は毎週遅れがち」「不良は特定のラインで多い」といった傾向を話し合えば、改善のヒントが見えてきます。
「データを集める → みんなで見る → 改善する」のサイクルを習慣化することが大切です。

ステップ4:簡易ツールやクラウドを活用

Excelの自動集計や、クラウド型の小規模システムを試すのもおすすめです。
最近は「パワポ感覚」で操作できる直感的なツールもあり、専門知識がなくても使いやすくなっています。
紙からクラウドへ切り替えるだけで、情報共有のスピードは格段に変わります。

ステップ5:将来を見据えた工程管理レベルの定義

「まずは1工程を見える化」→「ライン全体で進捗を共有」→「工場全体の最適化」と、段階的にレベルを上げていきましょう。
こうしたステップを意識しておくと、「次に何を改善すればよいか」が分かりやすくなります。

💡 大切なのは「MESを目指す」のではなく、“MES的な見える化を小さく実現する” こと。
現場も無理なくついてこられ、投資リスクも抑えられます。
そして、この積み重ねが将来の大きな改善につながるのです。

まとめ:「MESは理想像、でも今やるべきは足元改善」

MESは“未来の工場”に欠かせない仕組みです。進捗や品質をリアルタイムで把握できるようになれば、経営者にとっても現場にとっても大きな安心感が得られます。取引先からの信頼も高まり、事業の基盤をさらに強くすることができるでしょう。

しかし現実には、中小製造業がいきなりMESを導入するのは簡単なことではありません。導入にかかる投資額は決して小さくなく、現場に新しい仕組みを定着させるまでには相応の時間と労力が必要です。無理に導入しても「使われないシステム」になってしまう可能性は少なくありません。

だからこそ、今できるのは“足元の改善”です。紙やExcelに眠っている情報を整理する、小さくてもデータをためて活用する習慣を作る、そして工程管理を少しずつレベルアップさせていく。その延長線上にこそ、MESという理想の姿があります。

MESは遠い未来の話ではなく、「いま取り組む小さな一歩の先にあるもの」です。まずは目の前の業務を見直すことから始めましょう。その積み重ねが、やがて自社の未来を大きく変えていくはずです。

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