現代のビジネス環境では、デジタル化の波が急速に広がっています。これに伴い、税務や経理業務も紙ベースから電子化への移行が求められるようになりました。その中で注意が必要な法律が「電子帳簿保存法」です。
この法律は、帳簿や書類を電子データで保存することを認め、業務の効率化と透明性の向上を目的としています。個人事業主を含めた全事業者が対象なので、中小製造業もこの法律を知り、対応することは重要です。
現状はシステム導入費用などのデメリットを指摘する声が大きく、毎年法律が緩和される方向で改正されているため、中小製造業では様子を見ているところが多いのではないでしょうか。ただ今後はちゃんとした対応が求められる可能性が高いため、税理士等の専門家と継続した確認は必要です。
また、電子帳簿保存法に対応するのであれば適切かつ効率的に対応することで以下のようなメリットが得られます:
- ペーパーレスが進み書類管理の手間を大幅に削減できる。
- 業務が効率化できる
- セキュリティが向上する
- 法令遵守を徹底することで、取引先や顧客からの信頼が向上する
- 税務調査の際にスムーズな対応が可能になる
「電子帳簿保存法」と聞くと、「なんだか難しそう」「対応が大変そう」という不安を抱える方も少なくありません。特に、ITの活用に慣れていない中小製造業では、その不安がさらに大きくなるかもしれません。
本記事では、電子帳簿保存法に関する基本的な知識から、2024年度までの法改正内容、そして具体的な対応方法までをわかりやすく解説します。法律への対応を負担に感じるのではなく、業務効率化のチャンスとして活用していただけるよう、具体例や実践的なアドバイスも交えながら進めていきます。
電子帳簿保存法への対応は、単なる「義務」にするともったいないです。それ以上に、業務効率化のチャンスであり、事業運営をよりスムーズに進めるための一歩です。本記事を通じて、この法律を「身近で役立つツール」として理解していただければ幸いです。
それでは、さっそく始めていきましょう!
電子帳簿保存法の概要
電子帳簿保存法は、帳簿や書類をデジタルデータとして保存する仕組みを整備した法律で、1998年に制定されました。この法律の目的は、税務調査の効率化やペーパーレス化の促進を通じて、事業者の業務負担を軽減することです。本節では、法律の目的、認められている保存方法の種類、そして義務と任意の違いについて解説します。
基本情報
1. 目的
電子帳簿保存法が目指すのは、主に以下の2つです:
税務調査の効率化:
デジタルデータを利用することで、税務署が必要な情報を迅速かつ正確に確認できるようになります。これにより、調査のスピードが上がり、事業者の対応負担が軽減されます。
ペーパーレス化の推進:
紙の帳簿や書類を減らし、保管スペースや管理コストを削減することで、企業全体の運営効率を向上させます。また、紙を使わないことで環境保護にも寄与します。
2. 対象者
電子帳簿保存法の対象となるのは、帳簿や書類を電子データとして保存するすべての事業者です。特に、以下のような特徴を持つ中小製造業にとって、大きなメリットがあります:
- 紙ベースでの管理が多い企業
大量の帳簿や書類を日常的に管理している事業者は、電子化によって業務効率を大幅に向上できます。
- コスト削減を図りたい企業
紙の保管スペースや印刷費用を削減することで、経費を圧縮し、限られたリソースを他の重要な業務に充てられます。
- 電子取引が増加している/増やしたい企業
電子メールやPDF形式での取引が一般化している中、適切な保存体制を整えることで税務調査への備えが可能になります。
保存方法の3つの種類
電子帳簿保存法では、事業者が選択可能な保存方法として、以下の3つを認めています:
- 電子帳簿等保存
電子的に作成された帳簿や決算書類を、そのまま電子データとして保存する方法です。例えば、会計ソフトで作成した仕訳帳や総勘定元帳が対象となります。
- スキャナ保存
紙で受け取った領収書や請求書などをスキャンしてデジタル化し、保存する方法です。法令に準拠した保存条件を満たせば、紙の原本を廃棄することが可能です。
- 電子取引データ保存
電子メールやPDFでやり取りされる請求書や領収書など、デジタル形式で受け取った取引データを保存する方法です。これは法律で義務付けられており、紙に印刷して保存するだけでは不十分です。
義務と任意の違い
電子帳簿保存法には、必ず対応しなければならない「義務」と、選択が可能な「任意」の部分があります。
1. 義務
電子取引に関わるデータの保存は法律で義務付けられています。例えば、請求書や領収書がPDFや電子メールでやり取りされる場合、これらのデータを適切に保存しなければなりません。この義務に対応しない場合、税務調査で罰則や指摘を受けるリスクがあります。
義務として求められるポイント:
- データの改ざん防止措置:タイムスタンプの付与やシステム上の保護機能。
- 検索機能の確保:取引日や金額で迅速に検索できるシステム。
- 税務署へのデータ提出が可能な保存体制
2. 任意
義務ではない部分として、紙で保存している帳簿や書類を電子化する選択肢があります。例えば、紙の帳簿をスキャナでデータ化して保存する場合、電子帳簿保存法に準拠した方法で保管すれば、紙の原本を廃棄することも可能です。
任意対応のメリット:
- 保存スペースの削減:紙をデジタル化することで保管場所が不要になります。
- 書類検索の迅速化:電子データならキーワード検索で必要な情報をすぐに見つけられます。
ただし、任意対応はコストや運用の負担を考慮して、自社の状況に合わせて判断するのがポイントです。

今、経営者が知るべき最新情報
電子帳簿保存法は、改正を重ねることで対応がしやすい仕組みへと進化しています。しかし、最新の保存義務や要件を理解しないままでは、法令違反や業務トラブルのリスクがあります。
保存義務の強化
1. 電子取引データの保存が必須
改正後の電子帳簿保存法では、電子取引データ(例:請求書や領収書のPDF、電子メール)の保存が義務化されています。紙に印刷して保管するだけでは不十分であり、電子データそのものを適切に保存する必要があります。
- リスク
保存義務を怠ると、税務調査で罰則を受けるリスクや、追徴課税の可能性があります。また、必要なデータを提示できない場合、調査が長引き、企業の信頼性にも悪影響を及ぼします。
保存要件のポイント
電子帳簿保存法に準拠するには、以下の保存要件を満たす必要があります:
1. データの改ざん防止措置
保存データが不正に変更されないように、改ざん防止措置が求められます。具体的には以下の方法があります:
- タイムスタンプの付与:データが保存された日時や改変がないことを証明。
- 訂正・削除履歴の記録:データの変更履歴を確認できるシステムを利用。
- アクセス制限:データにアクセスできる担当者を限定し、不正操作を防止。
2. 適切な検索機能の確保
保存したデータを迅速に利用するため、以下のような検索機能が必須です:
- 取引日や期間での検索:取引が行われた日時を基にデータを特定。
- 金額や取引先名での検索:取引内容を素早く見つけられる機能。
これらの機能を備えることで、税務調査時に必要なデータを即座に提示でき、調査効率が向上します。
3. 税務署への事前申請が不要
従来は、電子帳簿保存法に基づく保存方法を税務署に事前申請する必要がありましたが、最新の改正によりこの手続きが不要になりました。これにより、事業者はスムーズに対応を進めることが可能です。
電子帳簿保存法の最新改正は、対応を容易にする一方で、電子取引データ保存の義務化や改ざん防止措置の強化など、事業者が守るべきことも明確になっています。これらを理解し、適切な対応を進めることで、法令遵守と業務効率化の両立が可能になります。
特に中小製造業では、保存要件を満たす簡易なシステムやツールを活用し、コストを抑えながら段階的に対応を進めることが重要です。さらに今は頻繁な改正もあり、システム要件も定めづらいため、状況を専門家に確認しながらその段階的な対応を決める必要があります。
対応するための基本ステップ
電子帳簿保存法への対応は、計画的かつ効率的に進めることが重要です。中小製造業が限られたリソースで対応を進めるための基本ステップを以下にまとめます。
1. 電子帳簿保存法の最新情報の確認
税理士等の専門家や国税庁のサイト、信頼できるWebサイトの最新情報を調べ、何をどこまで対応すべきか、どこまで対応が固まっているか、を確認します。
2. 現状の把握
対応を進めるための第一歩は、自社の書類管理状況を正確に把握することです。
・紙で管理している書類の確認
現在紙で保存している請求書、領収書、仕訳帳などをリストアップし、電子化が必要な書類を選定します。電子化が難しいものは、現行の保存方法を維持しつつ、長期的な改善策を検討しましょう。
・電子取引データの確認
電子メールやシステムを通じてやり取りされる請求書や領収書が適切に保存されているかを確認します。また、データ量を把握してシステム選定時の基準を作りましょう。
3. 適切なシステム導入
次に、保存要件を満たすシステムを導入します。中小製造業では、コスト効率が良く簡単に使えるツールが最適です。
大企業も使うような多機能のシステムは高額になります。また、法律改正の対応を重ねているため、クラウドサービスの中には利用料が上がることが想定される場合もあります。慎重に選びましょう。
・簡易ツールの利用
改ざん防止や検索機能を備えたシンプルなツールを選びましょう。他の中小製造業の導入事例がある製品を選ぶと安心です。
・クラウドサービスの活用
初期コストを抑え、月額料金で利用できるクラウド型サービスはおすすめです。自動バックアップ機能もあり、データ紛失リスクを軽減します。
4. 従業員教育
新しいシステムの操作を従業員が理解し、業務にスムーズに取り入れることが重要です。
・操作マニュアルの作成
シンプルなマニュアルを用意し、従業員が迷わず利用できるようにします。
・実践的な研修
実際の業務データを使った研修を行い、操作方法を共有します。研修後には質疑応答の場を設け、疑問を解消しましょう。
・サポート体制の活用
システム提供会社のサポート窓口を活用し、トラブル時に迅速な対応ができるようにします。
4. 運用ルールの整備
導入したシステムを長期的に安定運用するために、ルールを明確にします。
・データの定期確認
月次や四半期ごとに保存データを確認し、不備があれば修正します。
・バックアップの設定
クラウドとローカルストレージを併用し、データの安全性を確保します。定期的にバックアップの復元テストも実施しましょう。
・トラブル対応フローの整備
データ紛失やシステムトラブルが発生した際の対応手順を明確化し、各担当者の役割を明確にします。
電子帳簿保存法への対応は一度の準備で終わるものではなく、継続的な見直しと改善が求められます。このプロセスを通じて、業務をより効率的で信頼性の高いものにしていきましょう。
よくある課題とその解決策
電子帳簿保存法への対応を進める中で、多くの中小製造業が直面する課題があります。それらの課題を事前に把握し、適切な対策を講じることで、スムーズな対応が可能になります。
課題1:システム選びの難しさ
課題の背景
電子帳簿保存法に対応するには、保存要件を満たすシステムの導入が必要です。しかし、多くの中小企業にとって、数多くの製品やサービスの中から最適なシステムを選ぶのは簡単ではありません。以下のような疑問や不安がよく見られます:
- どの製品が法令要件を満たしているのか?
- 自社の規模やニーズに合ったシステムをどう見極めるべきか?
- 導入後に使いこなせるかどうか?
解決策:導入実績があり、サポートが充実している製品を選ぶ
- 導入実績の確認
- 他の中小製造業や同業種で導入されている製品を調査します。口コミやレビューを活用し、実際に使用している企業の感想を参考にするのがおすすめです。
- 試用期間を活用する
- 無料トライアル期間を提供している製品を試し、自社の運用に適しているかどうかを確認します。実際に使うことで、操作性や機能が期待に合うかどうかを判断できます。
- サポート体制の確認
- 導入後のサポートが充実している製品を選ぶことが重要です。特に、問い合わせに迅速に対応してくれるカスタマーサポートや、操作方法を詳しく説明するオンラインマニュアルがあるかを確認しましょう。
課題2:初期コストの負担
課題の背景
システム導入に伴う初期コストや運用コストが負担となり、対応を躊躇する企業も少なくありません。特に中小製造業では、限られた予算の中でどのように費用を捻出するかが課題です。
解決策:国の補助金制度や助成金を活用する
- 補助金・助成金制度を調べる
- 電子帳簿保存法対応を目的としたシステム導入に使える補助金や助成金制度が各地で提供されています。国や地方自治体の公式サイトをチェックし、自社が利用できる制度を確認しましょう。
- 例:IT導入補助金では、電子帳簿保存法対応システムの導入費用が補助対象になる場合があります。
- 申請をサポートしてくれるサービスを活用
- 補助金や助成金の申請は、手続きが複雑であることが多いですが、これを支援してくれる専門サービスを利用することで、スムーズに申請を進めることができます。
- コスト削減策の実施
- 必要最低限の機能を備えた製品を選ぶことで、過剰なコストを抑えられます。また、クラウドサービスを利用することで、初期投資を軽減しつつ、月額料金で導入できる柔軟性を持たせることが可能です。
課題3:IT環境に馴染みがないスタッフの多さ
課題の背景
中小製造業では、ITスキルが十分でない従業員が多い場合があります。そのため、新しいシステムの導入が現場の混乱を招いたり、活用が進まないケースが見られます。
解決策:操作が直感的なツールを採用し、必要に応じて外部サポートを依頼
- シンプルな操作性を重視
- 初心者でも使いやすい直感的なデザインのシステムを選びます。無駄に複雑な機能を避け、必要な部分だけに特化したツールが適しています。
- 社内研修の実施
- システム導入後に社内で簡単な研修を実施し、基本操作を共有します。従業員が実際の業務で使うデータを活用して説明すると、より実践的で理解が深まります。
- 外部サポートを活用
- 導入時や運用中に問題が発生した場合、外部の専門家にサポートを依頼することで、スムーズに解決できます。特に、システム提供会社が提供するトレーニングやヘルプデスクを積極的に利用しましょう。
電子帳簿保存法への対応における課題は、それぞれに適切な解決策を講じることで克服可能です。これらのステップを実践することで、対応プロセスをスムーズに進めることができます。
対応しないリスク
電子帳簿保存法への対応を怠ると、事業運営にさまざまなリスクが生じます。以下では、中小製造業が特に注意すべき3つの主要なリスクを解説します。
1. 法令違反と信用の喪失
電子取引データの保存は法律で義務付けられており、違反すると以下の問題が発生します:
- 税務調査での指摘:保存要件を満たさない場合、指摘や追徴課税を受ける可能性があります。
- 罰則の適用:重大な過失があれば罰則が科される場合もあります。
さらに、法令違反が取引先や金融機関に知られると、信用低下につながるリスクもあります。
2. 税務調査への影響
電子帳簿保存法に対応していないと、税務調査で以下の問題が発生する可能性があります:
- 調査が長引く:必要なデータを迅速に提示できず、調査が延びる。
- 信頼性の低下:保存体制の不備により、税務署から企業の財務管理能力が疑問視される。
これにより、取引先や顧客からの評価にも悪影響が及びます。
3. 業務効率化の遅れ
電子帳簿保存法への対応を怠ると、次のような競争力低下のリスクが生じます:
- 対応の遅れ:必要なデータを迅速に提供できず、取引先との信頼関係が悪化。
- コストの増大:紙ベースの管理を続けることで、保管スペースや人件費が増加。
- イメージダウン:ペーパーレス化が進む中で、時代遅れと見なされる可能性。
対応を進めるために
リスクを回避し、業務効率化を実現するためには、以下のようなアクションが重要です:
- 法令遵守の徹底:法律の基本を理解し、必要な計画を立てる。
- 簡易なシステム導入:中小企業でも無理なく導入できるツールを活用。
- 継続的な見直し:保存体制が機能しているかを定期的に確認し、改善を図る。
電子帳簿保存法への対応は、リスク回避だけでなく、業務効率化や信頼性向上につながる重要なステップです。早期に取り組むことで、企業の成長を支える基盤を築けます。。

まとめ
電子帳簿保存法は、事業運営の効率化や信頼性向上を実現するチャンスです。特に中小製造業では、業務の電子化を進めることで、競争力を高めるきっかけとなります。
対応には以下のメリットがあります:
- 業務効率化:データの検索や共有が迅速化し、書類管理の手間やコストを削減できます。
- 信頼性の向上:法令遵守が取引先や顧客からの信頼につながり、税務調査もスムーズになります。
- 競争力の強化:効率化で得たリソースを他の事業活動に活用することで、他社との差別化が図れます。
これらの成果を得るためには、まず現状を把握し、優先的に対応すべき部分を明確にすることが重要です。簡易なシステムを導入して早めに行動を開始し、継続的な運用改善を進めていきましょう。
電子帳簿保存法は、単なる義務ではなく、事業をより強固にする成長の機会です。必要な一歩を踏み出すことで、効率的かつ信頼される事業運営が実現します。小さな改善を始めましょう。その積み重ねが、明るい未来への第一歩となります。
ITに関してのお困りごとがあればご相談ください。